Story 83.夢。

第2回目のお教室(?)までの間もきーちゃん達はあちこちに行っているようで、毎週のように届く手紙には色んなきーちゃんが居て、送ってくれる写真を貼ったアルバムは3冊目になった。
手紙にはボボちゃん達に会えた。と書いてあった。たまたまお仕事で行った先が、きーちゃんの本当のおばあちゃんのお家の近くだった。
おばあちゃんに会うと話がややこしかったり変に心配かけてしまうといけないから会いに行かなかったけど、帰りにおばあちゃんの家の近くを通って貰ったそう。その時に、地域のお祭りが行われていて少しだけ寄ってみるとお社に奉納されたぼぼちゃんを見つけたきーちゃん達。手紙には「ボボちゃん達は私が生まれた時からずっと一緒だった」と書かれていた。
きーちゃんのおばあちゃんが、生まれてきたきーちゃんの為に健康と幸せを願って奉納したぼぼちゃん達。そのお人形は一定の期間お宮さんに置かれて神様に守ってもらうのだとその土地の人から聞いたそう。大人へと成長してその期間を終える子たちのぼぼちゃん達が出されていて翌日御神事でお焚き上げされるという日、偶然きーちゃん達がその場に訪れた。なんて素敵な話なんだろう。きっとぼぼちゃんと神様に呼ばれたんじゃないかな。「真ちゃんを連れてきてくれてありがとうってやっとちゃんと言えたよ」きーちゃんの名前と誕生日の書かれた、飾られたボボちゃん達の人形と一緒に写るきーちゃん達はとても良い笑顔で、泣けてきた。きーちゃんのボボちゃん達は姿が見えなくなったかもしれないけど、多分、またきーちゃん達の側に居てる氣がした。

第2回目のお教室。今回は2日間の日程。その間きーちゃん達はうちに泊まる。きーちゃん達が来るよ。と言うと、旦那もマハルとソワソワとおもてなしの準備をするから面白い。
きーちゃん達が到着するのは夜。その日も保育園のお迎えはマハルが張り切って支度をしていたからとても楽だったと旦那は言う。帰ってから「きーちゃんまだー?」とソワソワしながらも、ものすごくお手伝いをしてくれたりお片づけも念入りにしていたり張り切るマハル。ホント、きーちゃんうちで暮らしてくれないかしら。

マハルが寝るのは9時半。9時過ぎてタマキが寝た後も「きーちゃんが来ないー!マハル寝ちゃうでー」とマハルは頑張って起きていようとする。今日は一日中「きーちゃんが来る♪」と張り切り、保育園でも一段と先生のお手伝いも頑張っていたらしく相当眠たいらしい。「明日、一緒に保育園に行って貰えばいいやん」と言っても「きーちゃんにおやすみ言うの!」と頑張る。いじらしいヤツ。マハルの睡魔がピークを迎えようとした9時20分過ぎに家の前に車がとまった。「きたーーーー!!!」マハルは睡魔を吹っ飛ばして玄関へ走る。マハルに急かされて玄関を開けるときーちゃん達が立っている。「きーーちゃーーーん!」アイドルのコンサート会場かというくらいマハルは興奮してきーちゃんの名前を呼んでいる。落ち着きなさい。「マハルくん会いたかったよーー」熱い抱擁をする息子ときーちゃん。そのままきーちゃんに抱っこされたままリビングへ戻り「あれ?マハルもう一人前やから抱っこはいらん言うてへんかった?」と旦那に茶化されてる。「違うで!マハルはもう一人前やけどきーちゃんだけはマハルのこと抱っこしていいねんで!」とよく分からない事を言う息子。かーちゃん、ちょっと理解出来ない。
きーちゃんは、一息入れる間もなくそのままマハルを寝かしつけに行ってくれた。というのに、旦那は早速真ちゃんを誘って飲み始める。この飲兵衛共め。
「遅くなっちゃってかわいそうなことしちゃったー」ときーちゃんが戻ってきた。マハルの睡魔は限界までやって来ていたらしく、きーちゃんがベッドに連れて行くと「明日一緒に保育園行ってね」と言ってすぐに寝てしまったらしい。「今日はカジュアルだねー」今日はいつもと洋服のテイストが違う。「今日はね、ずっと車だから楽な格好にしたん。パンツ真ちゃんのだよ。だからデッカい」麻の作務衣のパンツ?確かに真ちゃん家の中で作務衣を着てたね。ここに来る途中、用事を済ませてから来たとのこと。めっちゃハードじゃない。例のお教室は明後日だけど、明日寝込まないといいけど。
今日だけでなくて、ここ最近は忙しくてお家でゆっくりは出来てないらしい。「私はね、ホテルで待ってたりするけど真ちゃん働き詰めやねんな(´・ω・`)」
休みを入れようと言っているけど、なかなか休みを入れず家の方の仕事が休みでもヘルプで元の会社に行っているという。大体丸一日休みは10日に一度くらいで、本人曰く「昼までだったり朝がゆっくりだったり、トータルで仕事をしてる時間はだいぶ短いから全然大丈夫」らしい。
明日はどこにも行かず、ゆっくり過ごそう。と提案するときーちゃんは喜んで賛成してくれた。
「そうだ、あのね」きーちゃんはカバンからスケッチブックを取り出した。広げるとレトロな建物の写真や切り抜きが貼ってあったり、イラストがたくさん描かれていた。「素敵ー」「でしょでしょー(*≧艸≦) 」イメージは大正浪漫だとかあの辺りのカフェ。赤色や紫色の鮮やかな着物に白いエプロンの大正浪漫な写真も貼られている。ページをめくると、外国のアンティークな本や瓶、カップ、羽ペンなんかの写真。かと思うと、和綴じのノートや筆、文箱の写真が貼ってある。全部きーちゃんが好きそうなもの。見ていてワクワクするような大好きが詰まったスケッチブック。
「やっぱりもう見せとるー」旦那と飲んでたと思った真ちゃんが乱入してくる。「ねーさんに見て欲しかったんだもんー」と言って笑うきーちゃん。旦那も氣になるようで覗き込む。
きーちゃんの夢の雑貨屋さんのイメージを集めたものらしい。「兄ちゃんがこの間帰ってきてね、あとパパと4人で話してん♪」少し前、ずっと海外に居てたアキちゃんが一旦帰国。色んな(怪しげな)雑貨を持って帰ってきたらしい。そう言ったものが好きなきーちゃんはもちろん色々見せてもらっていて、そこから雑貨屋さんの話になったんだって。
元々真ちゃんと2人で雑貨屋さんをする計画を立てていたきーちゃん。(これも初耳だった)そこに同席していたパパさんが話に加わり、アキちゃんが海外に行ってきーちゃんのリクエストやアキちゃんの見立てた雑貨を、プラス色んな所を回ってる2人が雑貨を仕入れてきーちゃんの好きな物を集めた雑貨屋さんを作る計画が一氣に進んでいるらしい。
「パパが居なかったらこんなに進まなかったんだよ」きーちゃんと真ちゃんの当初計画はもう少しの3年後。これから1年位をかけてもっとイメージを固めて行く予定にしてたんだって。だから、建物のイメージやインテリアのイメージを色んな所を回った時に写真を撮ったりスケッチしていたりしていたらしい。そこにアキちゃんがたくさんの雑貨を持って帰ってきた。きーちゃんはアキちゃんが買って帰ったような雑貨も置きたいと話していたら、アキちゃんが仕入れてきたらええやん。とパパさん。雑貨屋さんをするにあたって何が必要なのかパパさんが調べてきて手配してくれると言うし、アキちゃんも仕入れの話に乗ってきた。テンションが上がってノリノリで話す3人にブレーキをかけつつ、真ちゃんも計画前倒しで出来るように予算や店舗なんかをどうするかのスケジュールを組んでいるという。
「えー、楽しそうー」「楽しいよー(*≧艸≦) 難しいのは全部真ちゃんがやってくれてるけどー」と笑うきーちゃん。「いつオープンするの?」「真ちゃんが暦見たらまだもう少し先かなーって。だからね、計画スタートの時に一氣に進められるようにねイメージ固めるのスピードアップ中♪」
だから、このスケッチブックを開くとワクワクしたんだね。「でね、建物のイメージをいくつか真ちゃんが描いてくれてるんだよ」ページをめくる。きーちゃんの好きそうなレトロで大正ロマンを感じさせる建物やインテリアが描かれているページがあらわれる。「すごい、これ真ちゃんが描いたの?」「そうなん、めっちゃ素敵やろー。真ちゃん天才でしょー♪」ひとつだけではなく、何パターンも描かれている。「どれも良くてかえって選べなくなってる」と笑うきーちゃんは本当に楽しそう。
おばあちゃまは、みんなが盛り上がって話しているから何事かと思ったらしいけど、きーちゃんと真ちゃんが計画している雑貨屋さんの話だと知って一緒に楽しそうに話に加わったらしい。「勤めに行くよりずっといい」と言いながら、実務的な事は真ちゃんが担当するねんで。と何度も念を押すらしい。
「雑貨屋さんが開けるのも嬉しいんだけどね、こうやってみんなが楽しいって一緒に考えてくれるのがすごく幸せ」と本当に嬉しそう。そんなきーちゃんを見てると私まで嬉しくなってくる。
「でね、ねーさんにお願いがあってね」なになに?私もその話に参加できるの嬉しい。
きーちゃんのお願いは、アロマだとかハーブの事とかを教えてほしい。というものだった。きーちゃんと一緒に暮らしていた頃、当時働いていた店で貰ってきた精油がきっかけで少しずつアロマを使っていた。今の店でも使っていたり、庭にハーブを植えてお茶にしたり料理にしたり掃除に使ったりと意外と親しんでいる。
きーちゃんは、日常でハーブやアロマを身近に使いたいと思うし、お店にも置いてみたいという。詳しい人に丸投げしてもいいんじゃないかとパパさんは言うけど、自分でも使いたいし使い方なんかもきちんと勉強しておきたいと目をキラキラさせて話してくれる。
今までそんな事に興味あるなんて知らなかった。と言うと、最初に就職した会社で出会った人も詳しくて少し教えてもらっていたときーちゃん。けど、きーちゃんもその人も辞めちゃってそのままになっていたらしい。雑貨屋さんのオープンに向けて、また勉強していきたいと決意したらしい。最初はスクールなんかに2年くらいかけて学ぶつもりだったけど、「予定が前倒しになっちゃったから」と笑う。
2年もスクールに通わなくてもいいんじゃないかと思ったら、相変わらずきーちゃんは文字の刺激が強くて理解していくのに時間がかかるから長めに予定を立てているらしい。
それなら、全然協力するってば。私を頼ってくれるのが嬉しい。しかも、こんなにもワクワクする計画で。
その夜は、きーちゃん達のお店の計画をたくさん聞いた。アキちゃんに魔法で使う道具なんかを探して貰うように頼んでいるらしい。「平たく言えばオカルト雑貨屋?」と旦那。「半分はそんな感じになりそうやな。果たしてどれだけニーズがあるか…」と苦笑い真ちゃん。実は雑貨屋さんがメインと言うわけではないらしい。真ちゃんやおばあちゃまの仕事の事務所と兼ねていて、きーちゃんが程よい距離で社会と関われるように…の意味での雑貨屋さんなので、引き続ききーちゃんは真ちゃんやおばあちゃまともお仕事するらしい。「オカルトだけじゃないよ、文房具とか雑貨とかアクセサリーも置くもんー」ときーちゃん。なんだか私まで楽しみになってきた。

翌日は、子供達を登園させるのにきーちゃんが一緒に来てくれたけど後は(特に真ちゃんの)完全休養日に。と言っても私は昼過ぎまでエミさんの所で仕事があるから2人で留守番してもらうことにした。
帰宅すると、きーちゃん達はスケッチブックを広げたまま仲良く寝ていた。新しく書き足されているページにはハーブについて書かれていた。
ふと、一緒に生活をしていた頃の最初の夏のことを思い出した。あの時は2人で留守番させるのをひたすら心配してたなー。帰ったら今日みたいに寝ていて。何年も経ったけど、変わらないんだと思うと何だか笑えてくる。あの頃はこんな未来を想像しただろうか。もしかしたら、氣付かないところで予感はしていたのかな。

2回目のお教室。エミさんのリクエストできーちゃんも参加。今回は、少し内容を変えてお茶を飲みながら雑談形式。前もって質問を受け付けたら思いの外質問がきたため、みんなから質問をしてもらって、それに真ちゃんやきーちゃんが答える。というもの。これが意外と好評だった。まあ、ダイレクトに自分の疑問に答えてもらえるもんね。
参加の方には好評だったけれど…きーちゃんにはそうでもなかったみたい。想像はついていたんだけども。参加者の中にきーちゃんよりも少し歳上の若い子が居て、その子がどうやら真ちゃんを氣に入ってしまったようで。どうしてこの人そんなにモテるんだ!?と疑問なんだけど、氣に入られてしまったのはどうしようもない。
終わってからのきーちゃんのテンションはすこぶる低い。マハルが「きーちゃんしんどいん?ねんねしな」とお部屋に連れてくくらい。確かに初対面の人間に囲まれて疲れたというのもあるんだろうけど、半分はヤキモチもある氣がする。
晩御飯が出来たから呼びに行くと、きーちゃんは充電体勢のまま寝ていた。真ちゃんは、そんなきーちゃんを幸せそうな顔で見ていた。きーちゃんが自分の腕の中で安心して寝てる。ずっと夢見ていたのかな。と思うのは少女漫画の読みすぎなんだろうか。
我ながら例の真ちゃんの話を聞いてから多少くっついてようがイチャこいてようが寛大になった氣がする。加奈子に話したらきっと食いつくだろうなーとか思うけど、本人が話さないなら内緒にしてあげとこう。旦那に話したら…信じるかしら。
「きーちゃん寝てるなら後にする?」お邪魔虫なのは分かってるけど、一応確認。「大丈夫、行くわ」と言うけど、きーちゃんは起きなくてソファーに寝かせて真ちゃん単独でリビングに来た。きーちゃんまた怒るんじゃないの?「きーちゃん痛いしたんやったら痛いの成敗するで!」と刀を手にポーズを決めるマハル。幼児なりに心配しているらしい。保育園から帰ってきた後、「きーちゃんはしんどいから静かに稽古するわ!」と無言で素振り(?)の稽古をしていた。

「明日、きーちゃんどうしようかー」参加者は同じだから、また怒るんじゃないかなーとちょっと心配。旦那は仕事として受けてるんだからヤキモチ妬くからって抜けたらあかんのと違うの?と言うけど…実は今回も交通費プラスうちに泊まるという超破格で受けてもらってるんだよねー。多分、真ちゃんも氣を遣ってくれて苦笑いしてる。「そんなんで仕事取りやめるとかプロとしてあかんやろ」と至極まっとうな意見の旦那。でも、それきちんと仕事に見合う報酬が発生している場合なんだよねー。「いや、あのさ…」このままではきーちゃんの名誉に関わるので正直に話すと、絶句している。「多分キリコが言うたからやと思うけど、ちゃんと請求せな」と真ちゃんがお小言を貰ってる。どっちにしても、何かごめん。
少ししてきーちゃんが起きてきた。「きーちゃん、ごめんね。大丈夫?」「大丈夫ー。人見知り発動して疲れちゃっただけー。ごめんね。明日は頑張るからね」と笑う。旦那は「ちゃんと充電したし」という言葉も聞き逃さなかったらしく何とも言えない表情をしていた。やっぱりお父さん氣分が抜けないのかしら。
翌日も、きーちゃんは宣言した通り一緒に参加してくれた。今日は一段と氣合いが入っているというか。一段とお人形さんみたい。リカちゃん人形というか、なんというか。真っ白のワンピースにボンネット。きーちゃんによると、真ちゃんが今一番氣に入っているコーデらしい。やっぱり真ちゃんの好みって変わってるよね。
昨日と同じ形式でお教室スタート。例の子は真ちゃんの真正面に陣取っていて、きーちゃんと話す真ちゃんをみてなんとも言えない視線を送っている。嗚呼、なんだか既視感。あの頃よりもきーちゃんは随分と大人になったけれども。全く真ちゃんに問題はないものの、この微妙にモテまくるのなんとかならないものか。
きーちゃんが小さい頃から感じていた水の話。文字の刺激の話、これをどう対処して使っていくか、今試行錯誤していること。改めて聴くと、なかなか大変だったと思う。特に、個性的であることは足枷でしかない学生生活の間は私が思っている以上に辛かったみたいだった。
「それって、自分は特別な力があって自分は特別な存在だと言いたいだけ?誰でも多少なりとも辛い思いしてると思うけど?だから逆に恵まれ過ぎてるのに『私ってかわいそうでしょ』って不幸自慢をしてるようにしか見えない」凍りつく空氣。そう宣ったのは、真ちゃんの真正面の例の女の子。もうね、全員が固まったね。私でも分かるくらい棘のある言葉と空氣。何でこうきーちゃんって攻撃されやすいんだろう。と一瞬思ったけど、すぐに「夏のコンビニ」の話を思い出した。きっとそうなんだろう。
「んーー、そうだね。私とっても恵まれてるよ。これが不幸自慢に聞こえたら、きっと不幸自慢なんだと思う。それは私が決めることじゃないから」ときーちゃん。「『私は不幸』っていうフロアに居たら不幸自慢に聞こえると思う。『私は不幸』ってフロアは、『飢え』のフロアかなー。『私の方が一番不幸である』ことがステイタスなフロア」きーちゃんはいろんなひとが集まる建物に例えて話を始める。フロアと言うのはそのまま『階』のことで、同じ建物ではあるけど、その人その人の周波数(スタンス)によって過ごすフロアが違う。同じ出来事が起きたとしても、捉え方は過ごしているフロアによって変わってくる。あるフロアにいる人は「ありがたいこと」「嬉しいこと」とポジティブに捉えるけど、別のフロアでは「不公平だ」と嘆いたり、対象がどう捉えてどう感じてということを考えずに「羨ましい」とか「妬ましい」とネガティブなことと捉えてしまう。一度そのフロアで過ごすと一生そのフロアで生きるのかと言えばそうではなくいつでも変えることはできる。今まで氣があって仲良くしていたのに、一緒に居ると疲れたり氣苦労が感じられるようになることがあるのは自分とその子とのフロアが違ってしまったから。フロアが違うことに良し悪しがあるわけではない。ただ自分はどのフロアに居たいのか決めるだけだという。
「みんな辛い思いしてるんだろうなって思うけど生まれてから今この瞬間まで全部同じことを同じタイミングで経験した人なんて自分以外居ないから、他人の辛さってね、私は分からないし他人の辛さを私がどれだけ辛いかジャッジするなんて傲慢だと思う。分かるのは『私が経験した出来事でその時辛いと思ったことがあった』っていうだけかな」
「自分の感情とか想い?ってすごーくいい加減だと思うねん。だって自分の経験した出来事を思い出すでしょ?そしたら、その時その時の心の状態で『良い経験』にしたり、『とっても辛い経験』にしたりしちゃうから。その経験をした時、すごく辛くても後から思えば経験して良かったなーって思うし、逆にすごーく嬉しかったり楽しかったりしても後から何であんなことしたんだ!って後悔したりするから」
「あとねー、特別な力かどうかは分かんない。だって氣がついたらそうだったから。私からしたら、文字をスムーズに読める人は文字をスムーズに読むっていう特別な力を持ってるし、人が多い所に行っても平氣って人は人の思念に左右されないっていう特別な力を持ってる人だもん。だからみんな特別な力を持ってるんだと思うよー」
改めて言われたら納得。きーちゃんの感覚は特別だと思ってたけど、きーちゃんからしたら、その感覚を持ち合わせていないことが特別な感覚なんだよね。てか、きーちゃん攻めるよね。おねーちゃん、ちょっとびっくりした。
第2回自体は無事終了。入れ替わりできーちゃん発熱。怒るじゃなくて、腹痛嘔吐発熱のトリプルコンボで寝込む方だった。「すぐ熱出すの嫌ー」お布団に直行きーちゃん。「大丈夫やで!タマキの方がすぐお熱なるから!」とマハルは励ましにならない励ましをしている。きーちゃんの枕元に勢ぞろい。「私、なんかご臨終みたいじゃないー?頭にハチマキ巻かなきゃいけないー?」「アホなこと言うとらんで、ホラ、言うてみな」と真ちゃん。「何もない」何事?「何も無いってことないやろ」「無いー」きーちゃん、お布団の中に丸まってしまった。今日の熱はいつもと違うってこと?「ひとまず、ご飯作ろー」真ちゃんは熱の原因が分かってるみたいだし任せよ。
「今日は人当たりじゃないの?」最近、晩酌タイムが尋問タイムになってきた氣がする。子供らが寝て落ち着けるってのが大きいんだけど。「今日はちゃんと結界張ってたし、違うな。何かあるのに言わへんやつやな」きーちゃんが熱を出す原因は何パターンかあって、今日の帰り「お腹痛い」「氣持ち悪い」を繰り返していた。この症状が一氣に来ると言いたいことなんかを溜め続けているパターンらしい。よく覚えてるよね。てか、それなら答え出てるじゃん。何で事細かに氣が付くくせに、ヤキモチなのだけは相変わらず氣がつかないのこの人。目眩がするわ。と思ってたら、きーちゃんが来てやっぱり真ちゃんを後ろからホールド。真ちゃんは慣れたようにホールドを解いてきーちゃんを膝の上に座らせる。「まだ拗ねてん?」首を振るきーちゃん。「大丈夫やから言うてみ」優しい口調で言う。きーちゃんを見る視線も口調も優しくて確かにここだけ切り取ったらすごく愛されて幸せな人に見えるんだろうな。「今日の私すごーく嫌なヤツ。失礼なヤツ。すごーく醜い。大っ嫌い。消えちゃえばいいのに」「そうかー。何で?」「真ちゃんのこと見てるからイラってして『自分のが不幸だと思ってるでしょ』ってトゲトゲの意地悪投げたもん。私、大っ嫌いー。見たくもない」ホラやっぱりヤキモチじゃん。「そうかー、キリエはキリエが大っ嫌いかー。ええよー、キリエが大っ嫌いな分キリエのこと大好きやから。キリエが見たくないならその分見てるし消えたら悲しいから消えたらあかん。自分を攻撃せんの。プラマイゼロ。自分を痛めつけるのおしまい」酔ってるとは言え、他人が居るのによくもそんな事サラッと言っちゃえるね。旦那、超複雑な顔してんじゃん。面白いから良いけどさ。
2人の時、こんな感じなんだねー。何か安心した。小さいきーちゃんの「私を見て」ってちゃんとキャッチして貰えてるんだね。まあ、これ以上は2人だけの時推奨だけど。とーさんがとっても氣まずい顔してるから。
『自分を攻撃』かぁ。ここは、あの子に向けてじゃなくてきーちゃん自身を攻撃しちゃうんだ。優しいから。なのかな。それとも、本当に自分の事が嫌いだからなのかな。
「まだちょっと熱いんちゃうか?ちょっと食べて寝ような」と言って真ちゃんはきーちゃん用野菜スープを用意しに行った。確かにまだ熱がある顔してる。
「夜の間に熱下がるといいんだけどね」「ねーさん、ごめんね」また謝るー。「こういう時はごめんねじゃないでしょ」「今もそうだけど、お昼間。すごく嫌なヤツだった」きーちゃんは泣きそうな表情をしている。とってもとっても自己嫌悪に陥ってるんだろう。
「きーちゃんは嫌なヤツじゃなかったよ。これ本当。間違ったこと言ってないと思う。私は衝撃っていうかハッとしたよ。後は受け取る人がどう受け取るかだからきーちゃんは心配しなくてもいいんだよ」素直で、優しくて。これは私がそうあって欲しいと言う願望なのかもしれないけど。
きーちゃんが遅い晩御飯の間に、飲兵衛2人は撃沈。「困ったねー」「美樹ちゃんもいつもこうなの?」「時々こうやってやらかすかなー」たまにリビングで飲み過ぎて撃沈するけど、ここまで飲むのはやっぱり真ちゃんが居る時だけだな。
「美樹、寝ちゃったしさ、今日一緒に寝ない?しんどい?」きっと朝まで起きないし。運ぶのも大変だから撃沈組はここで撃沈させておこう。きーちゃんを誘ったけど1人でゆっくり寝た方が良かったかな?と思ったけど、きーちゃんは喜んで私たちのベッドに来てくれた。
「何だか久しぶりだね」本当だね。一緒に暮らしてる頃アキちゃんのベッドで寝たよね。その頃から変わらず、素直で可愛くて。いっつも自分にだけ厳しくて。
「きーちゃんさ、輪廻転生とか信じる?」やっぱ氣になるから聞いてみる。「前世とか来世とか?信じてるよ。来世にはね、呼ばれたタイミングで行かないといけないんだって。自分が勝手に来世に行きたいって思って行こうとしてもダメなんだって」
昔は機会があれば来世へ行きたくて仕方なかった、今世に全く未練はなかったと言う。私たちと暮らしている間も何度も来世にいこうとしたけど、その度に真ちゃんがびっくりするタイミングで現れてこの世に留まった。真ちゃんがきーちゃんは中学生の頃から希死念慮が離れなくて、自分の想いよりも先に生き永らえることを優先させたってのは本当だったんだ。
「あれはね、私が来世へ行こうとしないようにするためかなって今は思うんだけど、その時は真ちゃんっていつも私の邪魔するって思ってた」と笑う。もう本当にダメだから何としてでも来世へ行こうとした時、真ちゃんがやっぱり現れてきーちゃんが1人で行こうとするから失敗するんだ。多分真ちゃんと2人じゃないと来世に行かせて貰えないんだよ。だから、きーちゃんがもう本当にこの世には未練がなくて来世に行きたいなら、一緒に行こう。と言ったらしい。
「それがね、すごく嬉しかった」1人じゃなくていいと思えるようになったって。元々はとっても後ろ向きな理由だけど、きーちゃんが1人だと思わないようになったならそれで良い。2人がいろんな場所に行ってるのは、最初は来世へ行くために一番相応しい場所を探すためだった。「来世へは場所もタイミングも誰と行くかも全部が相応しくないと呼んでもらえないから」
それでもやっぱり来世へのハードルは低く、寂しい時には来世への憧れは募るし、自分が存在してもいい場所へ行きたくなる。「シードラゴンはね、私の家族だと思ってね、ずっとシードラゴンの所に帰りたいって思っててん」マハルがお腹にいた時、海で会ったシードラゴン。その後も度々きーちゃんの前に現れた。前にも会ったって言ってたね。「もう本当に寂しい。ここは自分は居たらいけないんだ。自分は1人だって思うとね、シードラゴンは迎えにきてくれてたけどやっぱり真ちゃんが居て引き止めるからね、真ちゃんは此岸の仲間だと思ってた」
「一度本当に2人で来世へ行こうとしたんだよ」ああ、多分前に真ちゃんが言ってた時だ。「雷が鳴った日?」「うん。ねーさん知ってたんだー」あの時は、もう来世にすら行けなくてもいいから今世から離れたかったと言う。自分のせいで真ちゃんがどんどん弱っていくし、自分で自分がコントロール出来ないし、いつも付いてくれてるのは真ちゃんだと分かっているのに、真ちゃんのそばに居たいのに真ちゃんのことも怖くて。真ちゃんが怖いまま自分が消えていく恐怖と、せっかく見つけた居場所に居られないんじゃないかという不安と。「怖くない世界に行きたいってずっと思ってたら真ちゃんが『来世に一緒に行こう』ってやっと初めて言ってくれてん。何だろ、本当は真ちゃんを道連れにしたいわけじゃなかったけどね、嬉しかった。けど、神さまにまだあかんって言われちゃったー」と笑う。「本当、まだダメだよ」「うん。今はね、あの時ダメって言われて良かったって思うよー。今、こんなに幸せーがいっぱいやもん」
もうね、きーちゃんをお布団の中でぎゅーっとしたね。きーちゃんはうふふと笑う。いくつになっても、こんなに素直で可愛くて。何十回も生まれ変わってようやく近くに居られるようになったんだったら、自分だけを見てくれるようになったら、そりゃあれだけ大事にするわ。私だってこんなにも愛おしいって思うもん。
「ちょっと奥さん、うちの可愛い姫さまを襲わないでくださるー?」リビングで寝てると思ってたお邪魔虫が来た。「奥さんやなくて、悪い魔女やな」と笑う。誰が悪い魔女やねん。「じゃあ私悪い魔女に弟子入りしよー」ときーちゃんも笑う。「あかーん!帰ってこいー」と真ちゃんもベッドに乱入。もう、馬鹿じゃん?馬鹿過ぎて、笑える。子供ら起きるってば。ってしてたら、「うちの嫁の寝込みを襲うなアホ」と旦那が登場して、マハルの枕元に置いてある刀で真ちゃんをパコーンと斬りつけるもんだから、大笑いするしかないよね。きーちゃん、呼吸困難になって涙を流すほど笑ってるし。馬鹿だけど、ホントみんな大好き。
「でもさ、いくらベッド大きいからって大人4人は狭くね?」と旦那。うちの寝室のベッドはシングルを2つくっつけたもの。家族が並んで寝ることもあるけど、それはうちの子供たちがまだ幼児×2と乳児だから。大人4人はたしかにちょっと狭いけど…「美樹たちがあのままリビングで寝ててくれたらわたし達広々と寝られたんだけどねー」きーちゃんがみんなで寝ちゃおうって。なかなかみんなで寝る機会もないし、楽しいまま寝てしまいたかったから4人で並んでみたものの、やっぱり窮屈。笑「ってきーちゃん寝るの早っ」さっきまで笑ってたのに。「寝られるのは健康のバロメーターですから」と真ちゃん。精神的に不安定になると一氣に1日の睡眠時間が30分とかになるから、いきなりでも寝る方がよっぽど良いと言う。「もしかして毎回その不眠に付き合ってるの?」「時々もたなくて寝てしまうけど、出来る限りは」よくやるわ。
さて、私らも寝ますか。と思っていたら「とーちゃんかーちゃんずるいー!マハルもきーちゃんと寝る!」とマハルが起きてきて踏まれる真ちゃん。毎度うちの息子が申し訳ございません。「やっぱりせまいねー」きーちゃんまで起きちゃった。「マハル、きーちゃんと寝るからしんにマハルのベッド貸したるわー」とマハル。「マハルのベッドでは寝られんわwww」真ちゃんにマハルのベッド貸したら壊れるわ。
「マハルくんはきーちゃんのお布団で寝たらいいもんね」そう言って、きーちゃん達は奥の部屋に行ってしまった。マハルは真ちゃんからきーちゃんを守らないあかんからとしっかり自分の刀を持っていった。「息子にきーちゃん盗られたー」「逆ちゃうんかいwww」奥の部屋から笑い声が聞こえた。マハルがまた真ちゃんを斬ってるのかしら。きーちゃん、回復してきたみたいで安心。